APR. 2015



    日本の安倍首相は、世界の紛争地での「人道支援」をさかんに口にするようになりました。しかし、その実態はあまり知られていません。難民問題にくわしい米川正子さんが、米国のNGOがCIAの「下請け」として活動している事実など、その現実を知る手がかりを与えてくれます。〈全文はhttp://iwj.co.jp/wj/open/archives/240517 参照〉


人道支援とNGOの軍事利用―救援者、それともCIAスパイか

                                            米川 正子   元国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)職員・立教大学特任准教授

     CIAは、情報収集だけでなく、一部のNGOを武器輸送の手段として利用していることはあまり知られていませんが、実はあるハリウッド映画はCIAスパイと紛争(周辺)地域で働く人道援助団体の関係性について描き、論争を引き起こしたことがあります。  

                ■アンジェリーナ・ジョリー主演の人道支援の映画にCIAが登場

    UNHCRの親善大使(現在は特使)のアンジェリーナ・ジョリーが主演し、2003年に公開された映画「すべては愛のために」。日本においてはタイトル通り恋愛ストーリーとして知られており、映画監督もそう強調しています。しかし、この映画の原題は ‘Beyond Borders’ なので、直訳すれば「国境を越えて」。つまり、国境を越えた人道支援活動、あるいは国境を超えた難民をイメージしたタイトルなのです。しかし、それ以外にも、隠れた意味合いがあると思われます。

     それは、人道援助団体が、本来の活動の「域を超えた」行為に従事していること。実際に、映画の中に、ゲリラに拉致されたNGOの医者について、国際赤十字の職員が「彼は単なる医者ではなく、救援の域を超えて活動していた」と話すシーンがあります。

 興味深いのは、慈善団体っぽい名前の名刺を有したCIAスパイが、慈善団体のパーティー会場やNGOが活動する紛争地域など様々な場所に登場することです。そこでは、難民用の食糧の資金が不足しているために、上記のNGOの医者がCIAに助けを求めようとしたり、同医者がCIAから大金を受け取り、カンボジアのクメールルージュ支配地域に住む子供にワクチンを打つために薬品を輸送する途中で、その物資の中に隠されていた武器、コンピューターや機密書類が没収されます。同医者はそれに関して、「救援活動を続けるために、武器を輸送するしかなかった」と白状したのです。

    本映画は、世界中の紛争地域で人道援助団体が厳しい環境で人命救援に貢献している事実を描き、そうした団体にとっては格好の広報宣伝になったと思われがちですが、同映画の公開で、CIAの指導下で救助機関が働いているというイメージが広まれば、実際の現場で働く職員たちの命が危険に晒されると、欧米や日本のNGOの間では不評でした。これについて一切報道しなかった日本の大手メディアとは逆に、西洋の大手メデイアは大々的に取り上げました。(※1)

    映画監督は何を題材に本映画を作成したのか不明ですが、残念ながら、CIA陰謀説は映画の中だけでなく、現実に起きています。実際に、アメリカ人の人道支援家がスパイと誤解されてか、1995年にチェチェンで殺害された事件がありました(※2)。また本映画の内容について、アメリカの大手NGO、International Rescue Committee(IRC、国際救済委員会)は「我々は銃を密輸していない。(人道)原則とガイドラインがあり、我々はそれらに従っている」と述べましたが(※3)、これは真実ではありません。

                ■アメリカのNGOがCIAの下請けに

    アメリカ政府のNGOの軍事利用は、「対テロ戦争」以降、劇的に顕著になりましたが、実はそれ以前から始まっており、中でもIRCがアメリカ政府とCIAの下請けであることはよく知られています。(※4)

    IRCは、ナチス・ドイツからユダヤ難民を脱出させるための手段として、アインシュタインによって1933年に設立され(※5)、エレノア・ルーズベルト(ファーストレディ)などの支援も受けていました。1950年代以降アメリカ外交の役割を補い、グローバルな団体と発展しましたが、それはIRCの理事に、キッシンジャー元国務長官(元難民)といったインテリジェンスや国家安全保障に関わる大物の名前が連なったことも影響しています。(※6)

     IRCが取り組んだ「半分人道的、半分軍事的な支援」(※7)の事例は、1996-7年の第一次コンゴ戦争で見られました。アメリカ政府は当時のモブツ政権の打倒のために、コンゴ反政府勢力(AFDL)に直接兵站の支援をしただけでなく、IRCを通して、コンゴ東部の州都の2カ所に高射砲隊 (anti-aircraft artillery) を設置した上に、食糧配給という手段で反政府勢力の公務員に給料を支払ったのです。(※8)

    筆者もコンゴで勤務していた際に、IRCの内密の活動について、同僚と共に耳にしたことがよくあります。その活動とは、コンゴ東部に勤務していた国連やNGOの外国人職員が、第2次コンゴ戦争開始の1998年に国外に避難する中、IRCは反対に戦闘地に飛び込み、航空機で武器を輸送していたことです。

 他にも、武装輸送は確認されていませんが、CIAがIRC以外の機関を通して、人道支援に関わる事例もあります。援助団体は、援助物資の輸送のために航空会社やトラック会社と契約を結びますが、1969年から1973年まで、CIAが所有していたサウズン・エア(Southern Air)は、1990年代にUNHCRや赤十字と契約を結び、ソマリアやエチオピア難民の帰還や援助物資の輸送に使われました。(※9)

    映画「すべては愛のために」に話を戻すと、CIAが慈善団体っぽい名前の名刺を提示したシーンも、実話にもとづいています。パキスタンの新聞によると、アメリカ海軍兵士、警備員やスパイが偽パスポートを有しながら、アメリカに拠点がある名高い国際NGOの名前を使って、あるいは実在しない偽の人道支援NGOの下に、滞在していたと報道しました(※10)。このような機密の行為によって、現地では外国人の人道支援家に対する不信感が増大し、彼らの危険を脅かすことになります。

                 ■人道支援の影に隠れて着々と進められる安倍政権の思惑

   当然のことながら、これらのことを「アメリカの問題」としてのみ扱うことはできません。安倍政権は、NGOの軍事利用をもくろんでいると疑われる一連の決定を、着々と下しています。
 国家安全保障会議の設置と国家安全保障戦略の策定、武器輸出三原則から防衛装備移転三原則への改定、集団的自衛権行使容認の閣議決定。それに加えて、新たな「開発協力大綱」の閣議決定によって、それまでの原則で禁じられてきた、他国軍の活動への非軍事的な支援が可能になりました。

 外務省によると、ここで言う「開発協力」とは、狭義の「開発」のみならず、人道支援なども含め広くとらえています(※11)。これらの安倍政権の動きについて、日本でほとんど報道されていない人道支援の影の現実と照らし合わせながら、真剣に議論を進めなくてはなりません。(続)


(※1) The Guardian, ‘Hollywood tale of aid worker in cahoots with CIA sparks dismay’, 15 November 2003, The World Today, "Aid workers critical of Hollywood film" 17 November 2003,  などを参照
(※2) The Nations, ‘Spy or Savior?’, July 8 1999,
(※3) The Sunday Morning Herald, ‘Jolie’s film under fire’, November 10 2003
(※4) Eric Thomas Chester, Covert Network: Progressives, the International Rescue Committee and the CIA (Armonk/London: M.E. Sharpe, 1995).
(※5) Wayne Madsen, Genocide and Covert Operations in Africa 1993-1999, (Lewiston: The Edwin Mellen Press, 1999) 208
(※6)同書
(※7) Gérald Prunier, Africa’s World War: Congo, The Rwandan Genocide, and the Making of a Continental Catastrophe (Oxford: Oxford University Press, 2009) 127.
(※8) Filip Reyntjens, The Great African War: Congo and Regional Geopolitics, 1996-2006 (Cambridge: Cambridge University Press, 2009) 68.
(※9) Madsen, Genocide and Covert Operations in Africa 1993-1999, 361
(※10) The Nation, ‘Blackwater infiltrates streets of Islamabad’, 14 May, 2010,
(※11)外務省「開発協力大綱の決定について」(日程不明)




MAR. 2015
 

    日本人二人が過激武装集団「イスラム国」(The Islamic State *)に殺害されたというニュースは、日本だけではなく世界にもショックを与えました。殺害されたのは、湯川遥菜さん(42歳)、後藤健二さん(47歳)です。両氏の殺害映像は、1月24日、2月1日にインターネットで公開されました。

    湯川さんは、昨年7月下旬にシリアで行方不明となりました。その後10月下旬、ジャーナリストの後藤さんが「湯川さんを捜しに行く」という言葉を残してシリアの「イスラム国」支配地域に入り、音信が途絶えました。そして11月はじめ、後藤さんの家族に「イスラム国」から20億円の身代金を要求するメールが届いたということです。

                   安倍首相のエジプト演説が引金に

   一方、二人が依然として拘束されている2015年1月17日、安倍晋三首相がエジプトで演説し、「イスラム国」対策として2億ドル(約236億円)の支援をすると表明しました。その3日後の1月20日、「イスラム国」は「(安倍首相が約束した)2億ドルは『イスラム国』の拡大を防ぐためだ」として、3日以内に同額の2億ドルを払わなければ2人を殺害すると日本政府に警告したのです。残念なことに、その警告が事実となってしまいました。

    事件の恐怖が私たちを打ちのめしている間に、安倍首相は、テロリストに「罪を償わせる」という、「復讐」をほのめかす発言をおこないました(2月2日)。しかも、自衛隊が米国の空爆を支援することを口にし、そのためには憲法9条を改定する――など、首相が望む「憲法改定」を一気に進める姿勢を示しています。

    首相の言動は、9・11テロ事件の直後、ブッシュ米大統領(当時)が「復讐」を誓ったことを思いださせます。ブッシュ政権は、アフガニスタン侵攻をはじめ、無理やり口実をつくってイラクにも攻め込み占領しました。

 しかし、米国が「解放」したというイラクが、「イスラム国」のような武装集団をうみだす温床になってしまいました。

               米国のイラク占領が「イスラム国」のルーツ

    米中央情報局(CIA)の元情報員だったグラハム・フラー氏は、「米国は『イスラム国』の生みの親のひとり」だといいきっています。

    「米国はこの組織を意図的につくろうとはしていなかっただろうが、米国による中東諸国の破壊的介入とイラク戦争が、『イスラム国』をうみだす基本的な原因をつくったといえる。この組織の出発点は、米国によるイラク侵攻に反対することだった。その時期は、米国によるイラク占領に反対する多くの人々が彼らを支持した」(2014年9月のトルコでの発言から)

    さらに、イギリス『ガーディアン』紙記事「『イスラム国』:インサイド・ストーリー」(2014年12月11日)は、米占領下のイラクの刑務所内でひそかに組織づくりが始まったことを詳細なインタビューでつづっています。その一部を紹介します。

 ――2004年夏、一人の「ジハーディスト」青年がイラク南部のブッカ米軍基地内刑務所に連行された。この刑務所には、米兵によって捕らわれた2万人以上のイラク人が収容されていた。

    そのなかに、のちの「イスラム国」リーダーとなる人物もいた。この人物は米陸軍にも信頼されており、他の囚人たちとの会話も許されていたのだ。囚人たちは情報を交換しあい、計画を練ることができた。

    イラク政府によれば、「イスラム国」の重要な指導者となった25人のうちの17人は、2004年から2011年の間に米軍の刑務所に入っていたという。「イラクに米軍の刑務所がなければ、いまの『イスラム国』はなかっただろう」と、元囚人はいう――。

               軍事報復を選んだブッシュ政権の過ち

    さらにさかのぼって、「9・11事件にたいして軍事報復を選んだ米ブッシュ政権の過ち」を忘れてはならないというのは、米ジャーナリストのポール・ローゼンバーグ氏です。

 ――ブッシュ大統領は、(9・11事件の首謀者)ビン・ラディンの夢をかなえてやったといっていい。9・11事件の前、 ビン・ラディンは「聖戦士」になりたいと夢みていたテロリストの一人だった。ブッシュ大統領が、9・11事件を『犯罪行為』として対応するのでなく、 『戦争行為』とすることを選んだことで、ラディンが望むものを与えてやったのだ。

 第一に、アフガニスタンに攻め込むことで、ラディンがいう『これは西側のキリスト教とイスラム教の宗教戦争だ』という論法にお墨付きを与えた。 次に、イラクに侵攻してサダム・フセインを蹴落とすことで、ラディンをこの地域でもっとも影響のある地位に押し上げてやったのだ――

 ローゼンバーグ氏のいう「テロを犯罪ではなく戦争として扱い、軍事報復の道をとったことが、現在の中東地域の混乱を招く原因」という洞察は、日本人の私たちに「いまもっとも考えなければならないことは何か」を示しているのではないでしょうか。

*「The Islamic State」の訳として一般的に使われている「イスラム国」にならいました。 多くのイスラム教団体が「彼らは真のイスラムではない。むしろ『反イスラム』だ」といっていることを明記しておきたいと思います。